短編/一枚


＊ご自由にお読み下さい。


日記というものは本来、自己満足の産物であり、自己表現の内向であり、自己向上の試行、
はたまた自己本位な回想録 (メモリアル)であるべきです。
そう知りつつも私が日記を公開するに至ったのは偏に、私のことを露も知らぬ貴方方(あなたがた)が
この日記を見てどのような私を想像するのか、少しばかりの好奇心を誘われたからで御座います。
物々しいことを申しましたが、いや何、これは本当にごく普通の、何の変哲も面白みもない日記に過ぎません。
読むだけならば無料です。
もしも宜しければ…暫しの時間を費やして、私の日常を訪れては下さいませんか。


(中略)

　　　　　某月某日

　今朝まですっかり忘れていたが、ゴミの日である。二週間放置していた所為か黒いビニール袋はかなり臭った。構わずゴミ収集車に放り込んだ。
　教訓；生ゴミは小忠実 (こまめ)に捨てるべきである。


　　　　　某月某日

　駅前にて新しい人形を入手。洋装の女性である。甚く気に入ったが、日本人のくせして色素の抜けた髪だけが納得いかない。陽に焼けてしまったのだろう、赤茶けた毛髪を一本一本抜いた。


　　　　　某月某日

　前々から続けている作業に取り組む。随分と骨を折る。疲れた。今日はもう眠ることにする。


　　　　　某月某日

　目覚めは余りよくない。隣の部屋がひどく煩いのだ。この家は少し防音に問題があるかもしれない。怒鳴ったら案外静かになった。


　　　　　某月某日

　生皮、というものがある。雁や鴨の皮を使った料理らしい。鰐皮のバッグは定番だし、猫の皮は三味線に使うと聞く。火鼠の皮衣、なんてものもある。御伽噺だが。
　出来損ないの脳はこれ以上、皮の活用法を思い出してくれそうにない。誰か有効的な使い道を教えてくれないものだろうか。


　　　　　某月某日

　昔、魚の目玉を食べると頭が良くなると祖母が言っていた。迷信の類かもしれないけれど、試す価値くらいあるかと思い、やってみた。魚以外でも効果があるのかどうか今ひとつ心配だ。
　余談；あまり美味しくはない。


　　　　　某月某日

　昨日の食材？が満足のいくものだったとは言い難かったので、今日は味噌にすることにした。味噌ならば割合好きだ。味噌汁にしようか等と一瞬考えたが、無意味 (ナンセンス)というよりセンスが無い (ノーセンスな)のでやめておく。


　　　　　某月某日

　ゴミの日。滞りなく回収してもらう。廃棄処分にした人形の代わり、次の玩具を探しに行かなくては。


(後略)


＋　　　＋　　　＋


　「ミク何持ってんの？」
　「…日記？かな。ご自由にお読み下さい、だって」
　「何ソレ胡散臭 (うさんくさ)ぁ〜。てか、公共掲示板の角に置いてあるトコからしてかなり。日記読んでもらいたいなら、ネットに載せればいいのに」
　「だね」
　「ちょっと見せてよ………うぁ、変な内容」
　「うん。あのさ、ソレ…」
　「もう放っとこうよ。ほら、早く。電車出ちゃう」
　「あっ、うん。ゴメン今行く。……あのさ、ケイコちゃん。今の日記…なんだか、恐くなかった？」
　「そ？」
　「うん。だってね、まるで……」


　　…………………………。





Free to read.
And ,
free to awake to.







A Mad Tea-Party

Come Here Alice, the Lost Child!

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